膨らむアジサイの中身

空洞なアジサイの中身 四季

通勤途中に咲いているアジサイがあっという間に満開だ。アジサイってこんなに丸いっけ?と思うくらいに膨らんでいる。あらためてアジサイをよくよく見てみようと、週末はアジサイで有名な蘆花公園を訪ねた。

古くはシーボルトが、生き別れた日本人の妻のことを思って、アジサイに「オタクサ」(お滝さん)という名前を付けた(が、学名としては却下された)という話があるが、アジサイの膨らみ方はどこか抑えきれない思慕のようなものを感じさせる。

「男はつらいよ」シリーズ第29作「寅次郎あじさいの恋」に登場するいしだあゆみ扮するヒロインは、自ら寅さんにアプローチをかけるというシリーズでも非常に珍しい存在だ。初期は本気でマドンナにぶつかっていっては散っていく寅さんも、シリーズが20話を超えるとどこかあきらめ半分、予定調和に振られていくのだが、そういう意味でも、本作には独特の緊張感が漂っている。

丹後で出会ったヒロインはいまいちつれない寅さんを追いかけて柴又を訪ね、鎌倉の紫陽花寺に誘うが、おじけづいた寅さんは甥っ子の満男も連れていってしまう。紫陽花寺で寅さんを待つヒロインの背後には、アジサイが大きく膨らんでいるが、満男の存在に気づいた瞬間、その表情は陰っていく。

蘆花公園でアジサイを眺めながらそんなシーンを思い出していると、ふと、膨らむアジサイの中はどうなっているんだろうという疑問が浮かんだ。中を覗いてみると、空洞が広がっている。

紫陽花寺から帰ってきたヒロインは、「私が会いたかった寅さんは、旅先の寅さんだったんやね」という言葉を残して丹後へ帰っていく。シリーズ全体を通して旅先の寅さんはある種の虚像だと思わされるが、ヒロイン自身がはっきりと言葉にするのは本作だけだったように思う。シーボルトのように相手と再会することがなければ、膨らんだアジサイの中の空洞を見ることもなかったんじゃないかという気もする。

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