森山直太朗「素晴らしい世界は何処に」を深めた二つの質問。10/26豊洲上映舞台挨拶レポート

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本日は豊洲で、森山直太朗さんの映画「素晴らしい世界は何処に」を鑑賞してきました。作品としての素晴らしさは大勢の方が語ってくださると思うので割愛しますが、上映後の舞台挨拶もとても面白かったので記事にしてみます。

今回の舞台挨拶では、まずは司会の藤田琢己さんの素晴らしい進行のもと、作品やライブについて直太朗さんの話をじっくりと聞くことができたのですが、その後観客席から飛び出した二つの質問とそれに対する直太朗さんの回答がまた秀逸でした。本記事はその二つの質問と回答に焦点を当ててまとめています。

※一部映画のネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。また、内容はあくまで私の記憶、解釈に基づくものです。そしてなぜサムネが「とある物語」なのかは最後に書いてあります。

質問1「メンバーの白塗りの具合は指示だったのか、各々の判断だったのか」

一人目の方の質問はライブ中のメンバーのメイクについて。劇中の両国国技館ライブで直太朗さん以外のメンバーは白塗りのメイクをしています。揃いの赤い衣装で着飾ったメンバーの皆さんの素晴らしい演奏、アクトは作品内の一つの見どころでしたが、意外な角度からの質問に直太朗さんも思わず笑ってしまっていました。

直太朗さんの回答としてまず、ライブの大枠の世界観は「夢の中」であり、メンバーはいうなれば「夢の中の住人」であったこと、ライブ全体を通してちょっとずつ何かがうまくいかないシーンが組み込まれており、それはライブの3日前に見るような夢(悪夢というニュアンス)をもとにしている部分があるという話がありました。

それがどう白塗りにつながっていくのかと思いながら聞いていると、メンバーが白くなっていたら怖いから、白塗りとかどう?という提案を直太朗さんからメンバーの皆さんにされたそうです。その時点では「よく見ると白いくらいでいいよ」という話だったそうですが、いざ白塗りを始めてみるとチェロの林はるかさん(ドラムなしの編成で一手に低音を担っていて、ものすごい存在感でした)から「もっと白くしたいです」という逆提案があり、あの形になった、とのことでした。

振り返ってみると白塗りのメイクはピエロのようで、オープニングのような静かなシーンではどこか深刻さや不安定さを感じさせ、「すぐそこにNEWDAYS」のような明るいシーンでは楽しさや軽やかさを感じさせるような印象でした。躁と鬱の両面が混在するような世界観の一要素としてあのメイクがあったんだと、あらためて感じることができました。

ちなみにバンジョーの西海さん(多分。間違ってたらすみません)に至ってはジョーカーみたいだったと話されていましたが、ジョーカーってピエロなのかな?と思い、帰ってから調べてみました。道化師全般をクラウン、悲しみを表現する役割のクラウンをピエロと言い、ジョーカーはクラウンなのだそうです。ピエロメイクは表情が悲しげで、涙がメイクされているのが特徴なのだそうですが、西海さんのメイクは果たしてどうなっていたのか。ブルーレイを買ったら確かめたいと思います。

質問2「100本のツアーを終えた後にどんな気持ちになったか」

二人目の質問者の方は直太朗さんの後輩にあたる方で、在学中に直太朗さんが来校され、その際に出会った(詳細がわかりませんでしたが、特別授業のような形で直太朗さんがいらっしゃったというようなお話でした)「ラクダのラッパ」が人生の応援歌とのこと。7年前からライブのアンケートにも「ラクダのラッパが聞きたい」といつも書いていたそうです。劇中ではギター一本で弾き語られる「ラクダのラッパ」ですが、直太朗さんから語られたのは、弾き語りの強さについて。

映画のエンドロールで弾き語りのとある曲が流れますが、それはテレコで一発撮りしたものであり、その状態が一番いいという気持ちがあること、結局弾き語りの状態が一番強いと感じる一方で、弾き語りだと陶酔しすぎてしまう面もあり、アレンジしてもらうことで、自分では気づけない楽曲の魅力が引き出されること、そんな曲を久しぶりに弾き語りしてみると作った当時とは全然違う風景が見えてくることがあり、「ラクダのラッパ」もそんな曲の一つだということ、だから最近は「ラクダのラッパ」を歌うことが割と多い、とのことでした。

その回答に会場内がなるほどという空気に包まれましたが、実はそれは質問の前段であることが分かり、ずっこける直太朗さん。本題の質問は100本のツアーを終えたあとどんな気持ちになったか、というものでした。

100本が終わった段階では、こんなにスムーズに進んでいいんだろうか(劇中のライブオープニングでも「だれ一人欠けることなく100本をこなせた」というMCが入っています)という気持ちと、結局「素晴らしい世界」ってなんだろうという疑問が残ったままで、言うなれば「きょとん」の状態だった。それは、その時既に総まとめのような形で日本武道館の公演を行うことが決まっていたためでもあるのだが、いざそこに向かうまでに映画内でも重要な要素となっている「ごくプライベートな出来事」があった。(そのプライベートな出来事は劇中、印象的なライブMCと録音した音声を通して提示されます)

そのプライベートな出来事を経て、これまでの人生で感じていたもやもやに折り合いをつけることができ、また新しい別の世界を発見することができた。そして、そのような経験を経て迎えた日本武道館公演を終えたときに、劇中でも語られる「素晴らしい世界は何処へ」という疑問に対するひとつの答えを自分なりに見つけることができた。

そんな話が直太朗さんから語られたのですが、その中で特に印象的だった内容があります。それは、「ごくプライベートな出来事」の中で偶然にも「別の世界がある」という言葉が語られた場面があった(劇中ではそのことは取り上げられていませんでした)、その言葉は「素晴らしい世界は何処に」という疑問をめぐる一連の出来事とリンクする部分もあり、だからこそこうして映画という形で表現されたことを、「ごくプライベートな出来事」の登場人物たちも喜んでくれていると思う、というようなものでした。

とても聞きごたえのある話であると同時に、もしそのエピソードが映画内で取り上げられていたら、直太朗さんの表現というよりは私小説的な印象が強くなりすぎ、「素晴らしい世界は何処に」という疑問への答えも、ウエットな解釈にリードされてしまったかもしれない、だからこそ取り上げられなかったエピソードなのではないかと思いました。自分が直太朗さんの表現に感じる魅力の一つは、万人にとって分かりやすく魅力的な歌声で、曖昧で混沌とした個人的な世界観を歌うことのギャップにあります。本作の中でも「素晴らしい世界は何処に」への答えは言葉として示されつつも、どこかその言葉だけでは説明しきれていないような余白が残されていたように思います。

何らかの理由で映画内では取り上げられなかったけれど、エピソードとして知ると映画をより深く味わえる。そんな話を聞くことができるのが、舞台挨拶に参加することの面白みなんだなと強く感じました。

素晴らしいセッションに感謝!次はライブに参加したい。

今回の舞台挨拶では、ファンの方から飛び出した二つの質問とそれぞれに対する直太朗さんの回答を通して、とても楽しい時間を過ごすことができました。いずれの質問からもどんどん興味深い話が飛び出してきて、さすがコアなファンの方(きっと)の質問&サービス精神旺盛な直太朗さんの回答だなあと感心していました。舞台挨拶があることを知らずに参加していたので、思いがけずお土産をいただいたような気分です。

散々分かったようなことを書いておいてなんなのですが、私が生で直太朗さんの表現に触れたのは、サムネにある舞台「とある物語」(2012年上映)を見に行って以来。その間も楽曲こそ聞き続けていたものの、本日参加されていた皆さんに比べるとかなりライトなファンだと思います。そんな自分でも映画としてだけでなく、いちライブ映像としても本当に素晴らしいと感じる作品でした(本記事では割愛してしまっているので全く伝わりませんが…)。「素晴らしい世界」のブルーレイを買ってもう一度直太朗さんとメンバーの皆さんが作り出すライブの世界観に浸りたい、そして次こそは生でライブを見たい、そんな思いを掻き立てられています。

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