輪島でボランティアに参加した翌日は、漫画「君は放課後インソムニア」(以下、君ソム)の舞台を巡るべく七尾市を訪れました。七尾市を訪れたのは5月に続いて2度目。当時は崩れたままの建物も多かった七尾の街がどれだけ復興したのかも気になるところでした。
前回は七尾駅周辺の七つ橋、能登食祭市場、七尾高校、平野屋(お好み焼き屋)といった場所を回ったのですが、まだまだ回り切れていない場所がたくさん。中でものと鉄道はボランティアで訪れるときにバスから眺めるだけで乗ることはできないままだったので、ぜひとも西岸駅まで行ってみたいという気持ちで七尾へ向かいました。
しかし、前日のボランティア疲れでチェックアウトは11時。七尾に着くのは12時半だけれど、その日のうちに東京に戻るためには、19時過ぎの新幹線に乗る必要がある。七尾行の電車の中でようやくそんなことを調べ始めて逆算したところ、なんと西岸駅を16時半、七尾駅を17時半前に出発する必要がありました。ということで、行き当たりばったりなわずか5時間の滞在でしたが、意外といろいろ回ることができました。
訪れた舞台①洋食屋トップワン
洋食屋トップワンさんは、天文部の初めての観測会が雨で中止になった場面で登場する洋食屋さんです。ハンバーグをおごってやると言って落ち込むメンバーを引き連れていく顧問の倉敷先生は、こんな大人でありたいなと感じさせてくれるとても素敵なキャラクターです。丸太くんと伊咲ちゃんの関係をいぶかしむ白丸先輩がエビの頭をキスさせて、受川くんに突っ込まれている場面もとても印象的でした。
お昼ご飯としてそのハンバーグを食べるべく、七尾駅到着後すぐにトップワンさんに向かいました。お店は本当に七尾高校(作中で登場人物たちが通う九曜高校のモデル)の近くにあり、雨の中連れだってお店に向かう登場人物たちの様子が具体的にイメージできました。13時前でピークは過ぎていたので待ち時間なく席へ案内していただきましたが、一人なのに一番広い座卓に通していただき、なんだか申し訳ない気持ちに。
ハンバーグは割としっかりした味付けで、食べ盛りの高校生たちが喜んで食べる姿が目に浮かびました。また、すっかり忘れていたのですが、高校の卒業式の日に部活の顧問の先生が、高校の近くのハンバーグ屋に連れて行ってくれたことを思い出し、自分の思い出ともリンクするものがありました。店内では地元の方が昼下がりのだんらんを楽しんでいらっしゃる様子で、40年以上街で愛されてきた、いい意味で洗練されすぎていないレトロさのある洋食屋さんという印象でした。家の近くにこんなお店があったら誰かを連れてきたいなと思わせてくれる、素敵なお店でした。
帰り道は七尾高校の方をぐるっと回ったのですが、道中至るところに地震の痕跡は残っていて、緊急性のない部分まで手が付けられるのはきっとまだまだ先のことなのだなあと感じました。
訪れた舞台②中央茶廊
今回七尾を訪れた目的の一つが、5月に深刻な被害を感じた七尾の街並みがどうなっているのかを確認することだったので、前回倒壊した建物を多く目にしたリボン通りへ。崩れてしまった建物が片づけられ、跡地に建物が立っている様子が見られ、うれしく思いました。自分は七尾へはボランティアに来られませんでしたが、地元の皆さんはもちろんのこと、多くの方のご尽力があったのだろうと思います。
通り沿いにある喫茶店中央茶廊さんは、作中では観測会のポスターを各所に貼らせてもらう場面などで登場します。5月に訪れたときにはお店が閉まっていたのですが、今回訪れたところ仮店舗で営業を再開しているという張り紙が。地図が付いていなかったのでどこだ?と思いつつ、張り紙内の一本杉通り(不思議なイラストが印象的な「シモハラ」さんの通り)というワードを頼りに探してみると、すぐに見つけることができました。
しかし、その時点で時刻は14:20。西岸へ向かう電車は14:41発だったので、お店でゆっくり珈琲を飲む時間はありません。ドリップコーヒーがあったら買っていきたいけど…とお店の前で逡巡していると、マスターが「どうぞ!」と声をかけてくださったのでお店の中へ。幸いにもドリップコーヒーも売っていたので(しかも君ソムパッケージ)、無事購入することができました。マスターから「キャラクターの原画や声優さんたちのサインもあるからゆっくり見ていってね」と優しく声をかけていただいたのですが、時間がなかったので泣く泣くお店を後にすることに。次こそはゆっくりとコーヒーを飲みたいと思います。店内には5月にパトリアで開催された君ソム展で展示された、オジロマコト先生のライブペイントイラストも飾られていました。
ちなみに購入したドリップコーヒーはカフェインレスの「インソムニアコーヒー」。不眠症の人でも心配せずに飲めるコーヒーっていうのが素敵な発想だなと思いました。後日飲んでみたところ、カフェインレスの優しい味わいの中に、きちんと香りを感じられる素敵なコーヒーでした。ブラックコーヒーは飲めなさそうな伊咲ちゃん(きっと)も、このコーヒーならきっと大丈夫。ふるさと納税でも扱っているようなので、申し込んでみようと思います。
訪れた舞台③:のと鉄道西岸駅、深浦白山社
のと鉄道の西岸駅は、天文部初めての夏合宿の拠点となる伊咲ちゃんのおばあさんの家がある場所。思いがけず二人だけの生活になってしまった家を、友人たちが訪れるシーンも印象的でした。
七尾駅に着くとそこに待っていたのは偶然にも君ソムのラッピング列車。後から知ったのですが10月の中旬まで故障で動いていなかったようだったので、本当に運よく出会えたようです。列車内には君ソムのイラストや、倉敷先生役の声優能登麻美子さんのサインなどが飾られていました。窓に星のシールが貼られていて、夜に乗るのも素敵そうでした。
15時過ぎに駅に着き、帰りの電車まで残り1時間半。西岸駅では丸太くんが伊咲ちゃんのお姉さんと関係を深める場面が印象的な深浦白山社に行って、丸太くんと同じように神社から海を見下ろす風景を撮りたいと思っていたのですが、調べてみると駅から徒歩30分弱。絶対に乗り過ごせないけど間に合うか…?と思いつつ、ここまで来て行かないわけにはいかない。早歩きで神社へ向かいました。
2キロちょっとくらいあったと思いますが、早歩きだったので20分ほどで到着。道中に陥没した歩道や傾いた電柱などがあって地震の痕跡を感じたのですが、神社も同様に被害を受けていて、社にはビニールシートがかかった状態でした。意外と短い階段を上ると、そこにはまさにあの海と山が一望できる風景が。無事写真も撮ることができました。西岸駅に戻って16:41発の電車に乗り込むころには、すっかり夕方。夕暮れ時の西岸駅やのと鉄道の車窓から見える風景もまた素敵でした。
訪れた舞台④パトリア
七尾駅に到着したのは17時ごろですが、金沢行の電車が出発するまでまだ20分ある!ということで、残り時間でできそうなこととしてパトリア内の能登屋台村に行くことに。パトリアは駅前の商業施設で、丸太君と伊咲ちゃんが仲を深める夜のお楽しみ会や、受験勉強の場面などで登場します。
前回パトリアで君ソム展を見た時に屋台村の存在には気づいていたのですが、立ち寄る時間がなかったのが心残りでした。多少でもお金を落として帰りたかったので、とにかくビールを注文することに。ところが本来500円のビールが何かのサービスで250円になっていて、ふだんなら喜ばしいことなのに、何とも言えない気持ちになりました。一気に飲み干して急いで駅へ。あっという間の七尾滞在はそこで終了となりました。
今度訪れるときは、眠れない二人が歩いた深夜の七尾の街も、ぜひ歩いてみたいと思います。
七尾市と「君は放課後インソムニア」
君ソムを初めて見たのは今年の1月ですが、それは本当に偶然の出会いでした。正月に実家に帰省したときに甥っ子姪っ子が「SPY×FAMILY」と「葬送のフリーレン」を見ており、面白かったのでサブスクで続きを見ていたのですが、ひとしきり見終わったときに、もう少し別のアニメも観てみたい気持ちに。その時にたまたま選んだのが君ソムだったのですが、説明も読まずにサムネイルの雰囲気とタイトルの響きだけで決めたので、予備知識は0でした。
見始めるとストーリーの面白さや作画の美しさに加えて、自分もその時期に寝つきが悪く悩んでいた(けど人には言えなかった)ことや、CANONのカメラで写真を撮っていること、先天性の病気で体に疾患があること、などなどの主要キャラクターに思い入れが入る共通点もあり、どんどん物語に引き込まれていきました。
特に眠れない夜を星景写真や散歩、ラジオといった形で楽しい時間に変えていく二人の姿を見ていると、眠れないなら眠れないでいいか、と気が楽になりました。思えば彼らと同じ高校時代にも眠れないときはあって、アニメのエンディングテーマを歌うaikoさんのオールナイトニッポンを布団にくるまって聞いていたことを思い出したりもしました。「ふつおた」、「オズモンドを探せ」、「生涯の恋人」等々。なつかしい。
アニメを見進める中では、登場人物たちが暮らす街の風景やそこで見られる美しい星空に目を奪われることも多くありました。舞台を調べてみると石川県七尾市。ここってこないだ地震があった場所なのでは?と気づいたときに、ようやく作品と現実の出来事がつながりました。そしてさらに調べてみると、いろいろなことが分かってきました。
能登半島の入口である七尾市も地震で大きな被害にあったこと、物語に登場する中山薬局は倒壊、見附の軍艦島は一部崩落してしまったこと、君ソムのアニメ放映は2023年の春だったので、2024年には大勢の観光客の訪問が見込まれていただろうこと。たまたま君ソムと出会ったことで、テレビで報道される能登がゆかりのない場所ではなく、まるで大事な友達が住んでいる場所のように思えて、その後のボランティア参加や観光という行動につながっていきました。
今回七尾を訪れたことで、復旧、復興が進む様子を見ることができたと同時に、緊急性のない場所には地震の痕跡が残り続けている(そして緊急性がないからこそしばらく残り続けるであろう)ことも実感しました。前日に訪れた輪島の風景も思い出しながら、この能登の街を大人になった丸太くんや伊咲ちゃんが見たら、どれだけ心を痛めるだろう、一方で愛する故郷のためにどんな行動をとるのだろうか、ということを想像させられました。
今回のようなボランティアへの参加や観光、あとはふるさと納税といった形になると思いますが、今後も自分にできる範囲での行動は続けていこうと思います。偶然君ソムに出会ったことがこうした行動のきっかけになっていることを思うと、漫画やアニメの力ってすごいなとしみじみ思います。帰宅後あらためて漫画を読み返しましたが、やっぱり素敵な作品でした。
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